詐欺の子

塾のこと

最近NHKで実話をもとにしたドラマが放送された。
オレオレ詐欺に加担した、少年たちの証言をもとに構成されていた。
所謂、受け子と呼ばれる役をやらされていた、いや、やっていた人間の中には、中学生の男の子もいた。
気楽にお小遣い稼ぎができることに魅力を感じたのか?
そうではないようだった。考えてみると、オレオレ詐欺は一人ではできない。そこに、必ず仲間がいる。その子は、そういう仲間たちと一緒にいること、そのものが楽しくてしようがなかったと言う。
その子の家は、共稼ぎか、あるいは、母子家庭か、定かではないが、家に帰ると妹はテレビゲームに夢中。テーブルの上には母親からの置手紙。
「焼き肉ピラフあるから、食べてなさい」母親が働きに行く前に作ってくれているのか?
いや、何のことはない。冷凍庫にぎっしりと詰まっているピラフを電子レンジでチンするだけだ。その子は、詐欺仲間たちと買ったスナック菓子や飲み物をワイワイガヤガヤ言いながら食べる方が楽しくてたまらない。さみしさを埋められるからか。
ただ、我が子を思いよろしくお願いしますと頭を下げる老母に対し、徐々に罪悪感を募らせていく。そして、自ら警察に捕まるべくわざと、ドジを踏む。そして、芋づる式にほかの仲間も捕まっていく。
一人の青年は弁護士に冷めた口調で言う。親に虐待されたのか?に対する答えだ。暴力よりも辛かったすよ。先生、お前はランドセルが似合わないなんていう親います?
ドラマの構成上、現実に罪を犯した人の証言やインタビューも途中で入るので、きちんとした脚本はないから、問われた弁護士が無言のまま、その場面は終わる。
また、別の捕まった青年は、家が貧しく詐欺を働いて得たお金はそっくり、母親に仕送りする。あまりにもの大金に母は訝しさを覚え、一円たりともお金には手を付けなかった。
そして、テレビのニュースで息子の友人が捕まったことを知り、自分の息子も仲間だということを確信する。母親は詫びる。貧乏な家に生まれた我が子に何もしてあげられなかったと。そして、返して来いと貯金通帳を渡す。息子は、警察に出頭して、裁判が始まる。検事から詰め寄られる。あなたは、自分の境遇を不幸だと思っているかもしれない。
けれど、あなたと同じような境遇の人がみんな犯罪者になっていますか?
そうではないでしょう? 辛い境遇の中、貧しい中、みんな必死で努力して頑張っているんですよ。そして、真っ当な職に就いているんですと。
息子は言う。「うるせえよ。みんながみんなそうじゃないんだよ。やらなきゃと思ってもできないやつもいるんだよ」と。
検事は、「は?」と小馬鹿にした感じで言うと、またもや同じことを続ける。
考えれば、検事や弁護士になる人たちである。優秀であったに違いない。貧しくとも十分奨学金ももらえ学問も続けられてきたはずだし、努力も惜しまなかっただろう。
だからこそのごもっともな意見なのだ。きっと、犯罪に手を染める若者の気持ちなど分かるはずもないだろう。
私は、涙が出てしょうがなかった。
私も同じことを生徒たちに言っている気がしてならない。
なぜ、宿題をやってこない。なぜ、頑張って問題を解こうとしない。もっと、努力をしなさい。小学校で習ったでしょうと。
言われた生徒は何も言えずただうつむいているだけ。或いは、泣きそうな顔で訴えかける。
「先生、聞いても分からないんです。だから、授業でもさっぱり何を言われているかわからなくて」と。
頭の中で筋道を立てながら問題を解く。実際条件をノートに書いてみて、それをもとに思考する。こちらにとってはそれが至極当然のことであっても、やはり偏差値の低い人はそれができずにいるのではないか。偏差値は努力次第でいくらでも上がるは幻想なのかもしれないとも思う。
塾を経営しているのだから、生徒たちの成績を上げることが使命には違いないが、今回のドラマを見て考えさせられた。
みんながみんなじゃないんだよ、やりたくてもやれなくて、どうしようもなくて……

新学期がまた始まる。少しこれまでとは目線を変えて生徒たちに接してみようと思う。
そして、ほんの少しのことにも「頑張っているね」と声掛けをしてあげようと、今の段階では決めている。
どうなることやら(笑)

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